海辺の家で

いつか、海辺に小さな家を持ちたい。
それは、僕らがまだ若かった頃からの夢だった。
大きな家でなくていい。窓から海が見え、書棚にはお気に入りの本が並び、テーブルの上にはいつもコーヒーがある。庭には風に強い草花を植え、壁には旅先で撮った写真を飾る。
朝は波の音で目を覚まし、昼には本を読み、夕暮れには海岸を歩く。
そんな暮らしを、僕らは何度も夢に描いた。
そして今、僕らは海辺の家にいる。
夢というものは、かなうまでの時間が長いほど、かなったときに不思議な顔をするものらしい。
窓の外には、銀色の波が寄せては返している。テーブルには読みかけの本が二冊。キッチンからはコーヒーの香りが漂い、古いラジオからは、懐かしいジャズが聞こえてくる。
君は窓辺に座り、ノートに何かを書いている。
「何を書いているの?」
「私たちの物語」
「どんな物語?」
君はペンを止めて、こちらを向いた。